不動産の売却話 「その鍵の重み」
ご年配でありながらとても姿勢が良く、所作の綺麗なご婦人。それが、お客様の第一印象でした。 お子様は独立して遠方におり、ご主人は亡くなられている。この家を売るのは、そろそろ老人ホームにでも入居しようと考えたから。それなりに […]
ご年配でありながらとても姿勢が良く、所作の綺麗なご婦人。それが、お客様の第一印象でした。 お子様は独立して遠方におり、ご主人は亡くなられている。この家を売るのは、そろそろ老人ホームにでも入居しようと考えたから。それなりに […]
相続でそれなりに大きな家が手に入るとわかったら、普通は嬉しいものなんだろうか。少なくとも我が家についていうなら、全く嬉しくはなかった。それどころか、厄介なものを遺してくれたな、という思いのほうが大きかった。私たち家族には […]
「今日も疲れたなあ」ミンミンゼミがしきりになく夏の暑い日。ゆだるような暑さは今年一番。流れる汗をぬぐいながら僕は商談を一つ終え、会社へ戻る道を歩いていました。「おーい!」「はい?」 唐突にかけられた声に振り向くと、そこに […]
私は古い一軒家に住んでいる。一階はリフォームしたため、白い壁、清潔感のある水回りがあるが、昔ながらの急な階段を上がって二階に行くと、そこは木のにおいに満ちている。柱にはマジックで背丈が書いてあり、開けた窓からのぞくのは瓦 […]
「結婚おめでとう!」「その若さでお家を買えちゃうなんてすごい!」抜けるように晴れた結婚式の日、まるでテンプレートみたいに風船が空に舞っていく青空の下で、私の人生は一つの転機を迎えた。幸せいっぱいで、夫もきっとそうだったと […]
新卒で不動産業界に入って、必死に働いて、3年。やっといくらかのコツがつかめてきたところ。先日、1通のはがきが僕のところに届いた。 手紙の主は、昔のお客さん。個人で日本料理店を経営している、58歳の主人だった。懐かしくなっ […]
不動産会社には、たくさんの来客がある。新婚のカップルもいれば離婚するから家を出る人もいるし、一人暮らしに目を輝かせる若者がいれば老夫婦がこれからの第二の人生の住処を探しに来ることもある。そんな私が見たことのあるあまたのお […]
「お疲れ様。よくやったな」上司の言葉に俺はほっと安堵のため息をこぼした。それもそのはずなのだ。俺は随分長い間折衝していた一つの案件を終えたばかり。ねぎらいの言葉の一つでもないとやっていけない。と、言えど。 安堵も大きいが […]
不動産業界の営業は楽な仕事ではない。むしろ大変なばかりで、成約も多くないなか、ノルマは追ってくるし数字は毎日迫ってくる。そんなこの仕事を、私が続けていられるのは一枚の手紙があるからなのだ。 その男性と出会ったのは、今の会 […]
みーんみーん。蝉がうるさく鳴いている。夏が始まった。「お父さーん。ちょっと、こっち見ててくれない?」妻の声に振り返ると、小学校に上がったばかりの三男がぱたぱたと洗濯物の周りを走っているところだった。 よいしょと重い腰を上 […]